夢の地球一周の船旅(後編)

安藤雅巳


短波ラジオは貴重なニュース源
第58回ピースボート地球一周の船旅の記録(2)終わり


 前回、トパーズ号の船の写真を載せて書きましたが、この船は第60回クルーズで終了となりました。60回クルーズには友人の友人(Aさん、実際会ったことがないのです)が乗っていたので、先日(428日に)、無事帰国したとのメールが届いていました。この60回クルーズは、いわゆる南コースで地球一周するもので、スエズ・パナマ両運河を通航しないでホーン岬や喜望峰を回り、南極大陸にも寄ってくるという魅力的なコース設定でした。私も行きたかったですが、そう頻繁に乗ると周りのひんしゅくを買いますのであきらめ、Aさんが洋上から発するブログを、指をくわえて眺めていました。ケニアへの寄港が暴動の影響で中止となり、その代わりの南アフリカではオプショナルツアーのバスが事故に遭遇するなど、ハプニングがあったクルーズのようでした。

さて、話を58回クルーズに戻しますと、前回、書き出しのところは一般的な内容でしたが、途中から急変し(笑)、天文現象にまつわる話ばかりになってしまいました。今回は、少しは無線に関することを書いてみます。無線と言っても短波での日本語放送の受信についてです。

持っていった短波ラジオは価格com.で一番安く購入したもので、SONY ICF-SW35 というやつです。本体価格14,830円、送料840円、代引手数料420円、合計16,090でした街の電気屋さんで聞くとだいたいこの合計額より高く、しかも取り寄せに時間がかかるというので、早い・安いインターネットで買いました。値段のことはともかく、この短波ラジオはデジタル表示があり、普通の中波はもとより短波は26メガぐらいまでとFMも聴けます。まあまあコンパクトなうえ、どこにでもある単3電池使用なのでこれにしました。私のほかにこのラジオを持ってきている人は4人いました。やはり、いろいろ検討しても同じ機種になったようです。船内の売店で売っているラジオはアナログ式のため、実際に買った人は、チューニングに苦労しているようでした。

出航後、日本近海でさっそく聴いてみましたが、やはり船というのは鋼鉄製のシールドケースのようなものですからデッキに行かないと放送は入りません。沖縄近海ではまだ日本語の中波がバンバンに入っていましたが、だんだん離れると中国語の世界に。ラジオ日本の日本語放送を初めて聴いたのは、出航後5日目の午前10時でした。このときすでに南シナ海を航行中で時差がマイナス2時間あったので、ちょうど日本の正午のニュースをやってました。周波数は東南アジア向けで17.81MHzでした。ラジオにはロッドアンテナが内蔵されていて、それで充分です。電波が弱いとき用にリール式のワイヤーアンテナも付属品として付いていましたが、結局は一度も使いませんでした。


時差は、西に進むにつれてマイナスの時差がだんだん生じてきます。飛行機の場合は一気に飛ぶので時差ぼけが生じますが、船の場合は、基本的には1時間の小きざみで時差調整が入っていきますからぜんぜん問題はありません。かえって得した気分になるときがあります。というのも、「今夜、時差調整をしてください。午前0時になったら時計を1時間戻してください。」との案内があると、結局はその日は25時間ということになって、洋上居酒屋で遅くまで飲んでいても、その夜は1時間多いですから安心です。このような措置はシップタイムと呼ばれて、次の国に着くまでにうまく時差調整がされていくのです。

出航15日目、624日の日曜日、天気は快晴です。船はスリランカ南西沖を通り、西インド洋を航行していました。このときに時差はマイナス3.5時間。シップタイムの午前830分、朝食を終えて、デッキでくつろぎながら日本語放送を聴くと、ちょうど正午のニュースとのど自慢をやっていました。フェージングを伴いながら日本の歌が聴こえてくると何となく懐かしい気分です。また、朝からお昼のニュースを聴くとは実に変な感じです。ニュースの中心は、7月の参院選挙に向けた政局でした。

この正午のニュースも、イエメンに着いた日、630日には時差がマイナス6時間にもなっていましたので、午前6時に正午のニュースです。このようにデッキで聴いているといろいろな人が話しかけてきます。ほかにニュース源としては、インターネットとか寄港地で積まれたやや古い日本の新聞、パブリックスペースにニュース専用の掲示板などもありますが、やはりリアルタイムで直に日本からのニュースのほうが迫力があります。アラビア近辺の乾燥して毎日ギンギンの熱い太陽が照りつけるなかで、「九州北部大雨、梅雨前線南下」という放送を聴くとかなり違和感がありました。そんな大雨をこちらに降らせて欲しい感じがしたものです。陸地が近づくとFM放送がいっぱい聴こえてきました。多分、アラビア語なので何を言っているのかさっぱり分かりませんが、音楽になると楽しめました。

参院選挙があったときには、結果を早く知りたいというTさんから、開票速報をラジオで聴かせて欲しいというリクエストがきました。729日、日曜日。船はすでにノルウェーのベルゲンやソグネフィヨルドを過ぎ、アイルランドに向かって北海を航行中でした。ちょうど出航50日目で、クルーズのほぼ中間点といったところです。この日の時差がマイナス7時間で、29日の午後7時、つまり日本時間では30日の午前2時の開票速報で、選挙結果を「自民党大敗」という表現で伝えていたのをデッキでTさんと一緒に聴きました。真夏とはいえ緯度が高いので、デッキは、相当寒かったものです。


83日、アイルランドのダブリンをあとに、ニューヨークに向けて大西洋のど真ん中を航行中、久しぶりに日本語放送が入りました。どうも日本語の国際放送というのは陸地向けのような感じで大海に出ると聴こえなくなってしまうのです。このときも北米向けの周波数ではワッチしても何も聴こえず、南西アジア向けの周波数12.045MHzが強力に入ってきました。ぜんぜん違う方角でしたが、多分回折で入ってきているのでしょう。内閣改造を8月中に行うことや、サハリン南部のネベリスクで2度も大地震があったことなどを伝えていました。

レゲエを満喫したジャマイカを過ぎ、カリブ海の真ん中を航行している816日は、もう時差はマイナス14時間にもなっていました。カリブ海はすっごく青くてきれいな海です。快晴の中にどこからともなく入道雲がにょきにょき現れてきて、その下にさしかかると大粒の雨です。そのスコールが過ぎてデッキがやや涼しくなった夕方5時に、翌日の朝7時のニュースを聴きました。16日の関東・東海方面は猛暑で40℃にもなったとか、東京の17日の朝の最低気温は30℃を割らなかったとかなどを伝えていました。どうもジャマイカよりも日本のほうが暑そうです。それにしても、次の日のニュースが聴けるとは、ますます違和感があります。夕方にすでにナイターの結果が分かるとはけったいな具合です。

このように、短波ラジオを持っていったおかげで日本のニュース(いや世界のニュースも含まれる)を誰よりも早く知ることができたし、それを介して友人・知人もできました。ニュース音痴にならなくてよかったかも。野球の好きな人はナイターの速報を掲示板に張っている人もいました。私は、野球よりゴルフの結果のほうが興味がありましたので、ニュースで聴いてからインターネットでスコアの詳細についてを知るという形としていました。日記によると、918日の午後、中波で福島の放送が聴こえてきて、いよいよ帰国近しというのを実感したものです。             (終わり)



まもなく本が出来上がります。題して『地球遊学・103日間の船旅から』で、船上で知り合った千葉県の人と2人での共著です。B6判で342ページ、ソフトカバー付きの本格的?なものです。ただし、書店流通なしの自費出版です。頒布価は印刷製本の実費相当額に近い1,300円に抑えました。本当に興味のある人に読んでいただきたいので敢えて有料です。この本で儲けるつもりはまったくありません。5月中旬以降に出来上がってきますが、とりあえず狭山クラブでも興味のある人がいそうな感じですので、413日の総会出席者及びプラスαの方には半強制的(笑)に送ります。実費分はそのときに同時にお知らせする郵便振替口座へ振り込んでください。「そんな本いらんわ」とおっしゃる向きには送りませんので、それまでにメールなどで知らせてください。メールアドレスは、masaann@coffee.ocn.ne.jpです。では、お楽しみに。